SK-2の可能性

マスターズ・スキーヤーに学んだことそれでも私は(Dr.ハリーの「愛のムチ」もあって)マスターズ・スキー競技のクリニックに参加した。
なにしろ周囲はスキー競技歴五O年という人ばかり。 レベルの違いは明らかで、ひとたびスキ場に出れば恐怖の連続。
滑り終わればみんなの同情的ないし軽蔑的な視線を浴びて肩身の狭い思いをしたものだ。 モチベーションが湧くどころではない。
もう二度と、こんな無茶はやるまいと思った。 しかし、素晴らしい発見もあった。
たとえば六五歳のエレガントなご婦人に出会えた。 一九六O年のオリンピックでは補欠に選ばれたとかで、暖炉の前では上品な老婦人なのだが、ひとたびゲレンデに立つと時計の針を四O年前まで巻き戻したような滑りを披露してくれた。
八O代の男たちもいた。 関節にガタが来ている気配は少しもなく、すばらしく優雅に、かつハードに滑っていた。
素晴らしい。 世の中にはこういう「お手本」がいるのだ。
こういう人たちの滑りをもう一度見られるなら来年も参加したい、と思ったくらいだ。 そして四日目、雪が降った。

たくさん。 六0センチは積もった。
しかも、憧れのパウダースノー。 幸いにしてパウダースノーはレスに向かないから、この日は終日、フリーで滑ることになった。
そう、思いきり楽しく滑ればいいのだ。 そして楽しく滑ることにかけては、私もレス級の人たちに負けない。
私たちはほとんど暗くなるまで滑りまくり、子どものようにパウダースノーに歓喜した。 八O歳の大べテランも、六五歳の元オリンピック選手も。
ここにも新しい教訓がある。 死ぬほど怖いそれなり(あるいは恥ずかしい、パカらしい)ことにも、の意味はある。
まず死ぬことはないだろう(たいていのハードなツアーやキャンプには医師が同行している)し、あなたの学習曲線は急カブを描いて上昇する。 閉じかけていた目を新しい世界に聞かせてくれる。
それに、本当の恐怖体験は感動体験と紙一重だ。 どちらもけっして忘れられない。

もうひとつ。 「お手本」を持とう。
人間なら、いくつになっても上を目指したいではないか。 そのためには目標を、そして目標となる人を持とう。
あなたが・自転車好きなら、がんを克服してツル・ド・フランス七連覇を成し遂げたランス・アムストロングだ。 私にとっては、八O代のマスターズ・スキーャーたち。
別に彼らから何かを「学ぶ」必要はない。 どう頑張ったって今さらランス・アームストロングにはなれない。
しかし、ああいう人がいるということ。 それが励みになる。
無理は禁物だが、たまには無理に挑戦してみるのもいい。 そうすれば、どこから先が(本当に)無理なのか、しっかりわかるはずだ。
筋骨隆々の男たちがパーベルを持ち上げたり、おもり(ウエイト)をたくさんつけたマシンで脚を踏ん張ってみたり。 おしゃれなフィットネス・クラブにも、たいていウエイトトレーニングの部屋はある。
ただし決まって奥のほうにある。 あるいは地下のフロアとか。
理由は簡単。 あんまり人に見せるものじゃないからだ。

見たことがなければ、私の初体験をお話しよう。 まだコロラド州アスペンに住んでいたころだ。
自転車とスキで楽しくやっていたから、クラブには通っていなかった。 しかし一大決心をして、ウエイトトレーニングなるものに挑戦しようと思い立ち、地元のクラブを訪ねてみた。
最近はやりの「スパ」を名乗る施設(本格的なマッサージも受けられるとすと、で、きれいな植え込みに固まれたガラス張りの建物。 受付の美女にクレジットカードを渡さっさと年間会員の登録をしてくれて、それじゃあ施設をご案内します、と来た。
まずはプール、いう意味だ)それからエアロビクスのフロア、そしてトレッドミルやエアロバイクの並んだ部屋。 どれも快適そうだ。
ところで、瞬間、案内嬢の顔が引きつったと見えたのは私の錯覚ウエイトトレーニングの部屋は?カミ(後からわかったのだが、「ございます、ウエイトトレーニング室の利用には別料金が必要だった)。 「こちらへどうぞ」。
彼女は先に立って通路脇の狭い階段を下りていった。 その先のドアを開けるとそこはまあ、昔の駆逐艦の機関室とSMのプレイルムを足して二で割ったような感じ。
タイルの床に、鏡張りの壁。 床に溝が切ってあるのは、血と汗を洗い流すためか、滑らぬようにとの配慮か。

リフテイングマシン、ツイスティングマシン、不気味に光るワイヤーの数々。 腕をむき出しにした若い男たちが、あちこちでうごめいている。
腕にも首にも太いミミズのような静脈がのたうっている。 走っている。
そして圧倒的な上腕二頭筋。 「ありがとうそろそろ」引き上げようと言おうとしたら、彼女が引き留める。
「せっかくですから、トライしませんつ・もう追加料金の手続きもしましたし。 トレーナーを紹介しますわ」。
やってきたのは、真っ黒に日焼けした大男だ。 見た目は確かにハンサムだが、何かが人間ばなれしている。
男はいろんなマシンの使い方やトレーニングのメニューを次々と、たぶんマニュアルどおりに説明しているのだが、私の耳には何も入らない。 なんというか、人造人聞からレクチャーを受けている感じで、もういっときも早くここから逃げ出したいと思うばかりだった。
いや、ウエイトトレーニングなんてやめてしまえと言うのではない。 週に二日の本格的な筋力トレニング(筋トレ)は必要だ。
これからずっと必要だ。 そして「本格的な」とは、ウエイトを使ったトレーニングを意味する。
ただしエアロビッグな運動(自転車とかジョギングとか)に比べると、けっして楽しいものじゃない。 つらそうだし、こわい。

Dr.ハリーも私も「筋トレは楽しい」などと言うつもりはない。 誰だって最初は、私がアスペンの地下室で感じたような恐怖と嫌悪感を味わうものだ。
それでも、恐怖心と蓋恥心を克服して「この先ずっと、週に二日は本格的な筋トレを」。 これがDr.ハリーの第三ルールだ。
ある年齢を超えた女性を襲う骨粗しよう症の予防にもなる。 ちゃんと指導を受けるでは、どうやって始めるか。
まずはプロのトレーナーに見てもらうこと。 もちろん金はかかるが、れだけの価値はある。
重いウエイトを扱うのだから危険だし、間違ったやり方をすると逆効果だからだ。 臆が切れたり、関節を痛めたりしたら一大事。
最初の二ー三回はトレーナーの指示に従ったほうがいい。 なじみのない世界に挑戦するのだから、慎重に事を運ぼう。
フィットネス・クラブに常駐している専属トレーナーなら、それほど高くはないはずだ。 予算に限りがあるなら、しかるべき本を読んでから始めるのもいい。
ただし「一週間に五分でOK」という類の本は避けること。 それと、テレビ通販でさかんに宣伝しているトレーニング器具も要注意だ。
たしかに宣伝に出てくる男女は健康そのものに見えるだろうし、筋肉もすごい。 しかし、彼らはもともと健康で筋肉モリモリだからCMに出ているのであって、「一週間に五分」であの身体になったわけではない。
通販で健康な筋そ肉が買えるくらいなら、みんなとっくにCMボイたちのような身体になっているはずだ。 というわけで、まずは信頼できるクラブに行き、男でも女でもいいから一番まじめそうなトレーナーを選ぶ。

ただ声をかけるだけのトレーナーを選んではいけない。


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